実行委員のメッセージ

右翼政権と女性国際戦犯法廷:「松井やより全仕事展」に来てください

越田清和

十二月一〇日から一六日までの一週間、札幌市の「北海道クリスチャンセンター」で、「松井やより全仕事展」を行なう。もともとは東京のWAM(アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」)が、二〇〇五年一二月から〇六年四月にかけて行なったものである。二〇〇二年一二月に亡くなった松井やよりという稀有のフェミニスト・ジャーナリストのやってきた仕事を、できるだけ多くの人たちに知ってもらいたい、彼女のメッセージを受け取ってもらいたい、と言う気持ちで、札幌でも開催しようということになった。
 「全仕事展」では、松井さんの生い立ち、ジャーナリストとしての仕事、フェミニズム・アクティビストとしての仕事、アジアへの視点、女性国際戦犯法廷などが、パネルで展示される。朝日新聞に掲載された松井さんの記事を全て集めたスクラップ・ブックも展示され、自由に読むことができる。
 私たちは、「全作品展」が行なわれる一週間、そのスペースを松井やよりだけでなく、札幌圏に住む女性たちの表現の場にしたいとも考えている。
松井さんの展示以外にも、一〇日午後二時からはオープニング・リレートーク「女性たちの今:私たちは主張する」、西野瑠美子さん(フリー・ジャーナリスト、WAM館長)の二回の講演会(一五日午後六時三〇分「ジャーナリスト・松井やよりの歩んだ軌跡」と一六日午後一時「「女性国際戦犯法廷の意義〜松井やよりから何を受け継ぐか」、芝居、ワークショップ、スライド上映、朗読と音楽など、毎日イベントが行なわれる。
「フェミニズム・バッシング」「ジェンダーフリーたたき」が強まりつつある中で、女性のメッセージをいろいろな方法で表現することが必要になっている。それが、新しい人(男性も含めて)たちとの出会いにもつながるはずだ。「全作品展」をその出会いの場にしてほしい。
 しかし、「松井やより全作品展」の意味は、それだけにとどまらない。安倍晋三が首相になったことで、この全仕事展は、政治的にも大きな意味を持つようになった。
 松井さんの最後の大仕事は、二〇〇〇年に開かれた「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」である。六四人の被害女性が証言し、世界各国から集まった人びとを含め連日一〇〇〇人以上が参加したこの法廷は、昭和天皇裕仁への「有罪」判決を下した。
これを真っ向から否定し、この法廷は「北朝鮮による工作だった」と主張しているのが、安倍晋三と中川昭一。ともに、今の政権の中枢(というか首相と自民党の政調会長)にいる人間である。そして「つくる会」教科書を支持し、教科書から「慰安婦」に関する記述の削除を求めてきた「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」メンバーでもある。
女性戦犯国際法廷についての番組を制作していたNHKに対して、放映の直前(二〇〇一年一月二九日)に安倍晋三(当時は官房副長官)と中川昭一が面談して、「一方的な番組を放送するな」と政治的介入をし、NHKがそれを受ける形で番組を改ざんしたことを朝日新聞が報道し(二〇〇五年一月一二日)、その翌日、NHKの担当プロデューサーが記者会見し、その具体的事実を明らかにしたことは、まだ記憶に新しい。
しかし、安倍晋三はその事実を否定し、「公正・公平な番組を求めただけ」とか「女性国際戦犯法廷は、北朝鮮による工作活動である」と言い始め、自分はその謀略による被害者であるかのようなポーズをとり始めた。そして、安倍晋三が「次期首相」になるかもしれないという流れができていくのに合わせるかのように、安倍晋三への批判は影をひそめ、朝日新聞もこの件をあいまにしてしまった。
女性国際戦犯法廷が正面から問題にした日本軍による戦争犯罪と天皇の戦争責任について、マスメディアは沈黙した。政治家の介入によってメディアの生命線である「表現の自由」が奪われたことを、メディア自身が認めたのである。いま進んでいるNHKの「国営放送」化は、この延長線上にある。
もう一つ重要なのは、安倍晋三の政治的介入が右翼による暴力的脅迫と一緒になって行なわれたという点である。松井さんは、こう書いている。「番組改ざんの背景には右翼からの圧力があったことは明白で、かなり早い段階で番組放映の情報を入手した右翼は、放映中止をNHKに再三要求していた。実際に放映の三日前の一月二九日(一月二七日の間違い・・引用者)、右翼団体が何十人も戦闘服でNHKに乱入して番組中止を求めた」(『愛と怒り闘う勇気』219〜220ページ)。
安倍晋三が主張する「美しい国」の表皮をめくると、そこには戦闘服を着て、軍歌を流しながら街中を黒塗りの車で走り回る右翼の姿がある。あからさまに「忠君愛国」というか「美しい国」と言うかの違い、身なりに気を使い笑いを浮かべて話すか戦闘服を着て大声をあげるかの違いだけである。 
安倍晋三は、所信表明演説で、美しい国とは「一つ目は、文化、伝統、自然、歴史を大切にする国。二つ目は、自由な社会を基本とし、規律を知る、凛とした国。三つ目は、未来へ向かって成長するエネルギーを持ち続ける国。四つ目は、世界に信頼され、尊敬され、愛される、リーダーシップの国」であると述べた。いかにも意味がありそうに書いているが、内容は全く語られていない。そして、「美しい国」の実現のために、「教育再生」と「主張する外交」、「憲法改正」が必要だと強調される。
この考えの根底には、日本が行なってきた植民地支配を否定し、あれは植民地解放戦争であり「正しい戦争」だったというイデオロギーがある。だから、松井やよりさんたちが全力で開いた女性国際戦犯法廷を抹殺しようとしたのである。
この日本の植民地支配を否定し、忠君愛国を強制するする流れ(「美しい国イデオロギー」)に対して、きちんと「ノー!」という態度を、私たちができうる限りの機会を使って示すことが大事になっているのではないだろう。
 12月に行なう「松井やより全仕事展」は、その第一弾である。ぜひ、ご参加ください。

【2006/11/23 11:42 】
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